柳美里と本多静六

作家の柳美里さんが、自らの困窮生活をもとに近ごろ本を出されています。

一時は年収一億円を超える売れっ子で、豪快にお金を使っていたという柳さんですが、現在は病もあり、思うように筆が進まず収入が無い、というお話です。

柳さんはお若いころから「宵越しの金は持たない」主義で、入ってくるお金はパッパと使う、貯金や投資は考えたことがなかったそうです。

安定志向に魅力を感じないというのは、作家や芸術家にはありがちなのでしょうが、やっぱりこんな話を聞くと、もったいないなあと思ってしまいます。

柳さんは「作家は日雇い労働者」とお考えのようですが、過去の著作が収入を上げ続けるという点では、不労所得者の一面も有しているように感じます。

ただ作家業の問題は、昨今本自体が売れなくなって、印税も減っているという事かもしれません。

平均で作家に支払われる印税は売価の10%と言われていますので、1500円の単行本一冊につき150円、一万部売れれば150万円という計算です。

しかし前述のように現在は出版社も不景気で、初版は5千部が相場という話もあり、そうなるともし全部売れても印税は75万円ですから、筆の遅い作家さんには確かに厳しい時代ですね。

どんな職業でもそうですが、特に作家などの自由業の場合、収入を安定させるのは難しい職業ですから、その仕事を仕事をやって行きたいと思えば、何らかの手を打たねばなりません。

普通は一つの仕事をして、毎月収入を得ます。

そこから日々の支出があって、多少は貯金も頑張るわけですが、この貯金というのは「お金の足し算」にあたります。

皆工夫して毎月2万円、3万円とコツコツ足し算を続けていくわけですが、それではお金持ちになれない、お金持ちになるには「お金の掛け算」を覚えなければならない。

著書の中でそう記しているのは林学博士の本多静六という人です。

本多静六は明治大正の時代にヨーロッパに留学し造園学を学んだ人物で、そのヨーロッパで利殖(お金の掛け算)の必要に目覚め、本業と並び投資家としても大成功をおさめ、巨万の富を築きました。

しかしその巨万の富も、最初の一歩はコツコツ地道な貯金から。

若いうちから収入の4分の1は必ず貯蓄をし、種銭を作ったのち、投資に乗り出したそうです。

赤の他人の私がここでたらればを語っても仕方のない話ですが、もし柳さんの一億の年収のうち毎年2500万円を貯蓄して、さらにそれを元手に小梅太夫さんのように不動産でも買っていたら・・・今の状況は全く変わっていただろうにと、記事を読んでいて思ってしまいました。

そういう保身を考えない人だからこそ、芥川賞作品を生み出せるのかもしれませんが、そんなに大きな掛け算のチャンス、普通の人生にはそう何度もありませんので、何ともったいない、とつい感じてしまった次第です。